武本康弘演出作品を再評価してみた

監督交代の話題が出る前から、京アニの演出家は他にもこんな人がいるんだよというのをやりたかったのですが、この話があったので、武本さんの分だけ先に再評価してみました。


全部探すのは大変だったので、2006年以降の分だけピックアップ。

武本さんの演出するフィルムの特徴は、コミカルな動き。
kanonでは特にあゆと北川を動かすことにかけては執拗なまでのこだわりを感じます。
TSROVAはテッサがよく動きます。アバンタイトルだけでも一見の価値ありです。
あとはカリーニンさんのところでカレーを食べるところ。
射手座の日は動きについてはそれほど強い印象はなかったけど、コンピ研の部長は比較的よく動かされています。


kanonの6話が特に印象的だったのでクローズアップしてみます。
まずは冒頭の食卓のシーンが印象的です。
祐一がリビングに入ってきて、あゆの頭だけが見切れてます。
祐一も食卓について食事をするのですが、あゆの手(左側)は見えて、声はするけど本人はフレームの外にいるというレイアウト。これが巧い。
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似たようなのは、12話にもあって、アイスを急いで食べて頭が痛くなった祐一のために栞が薬を出すときに、本人はフレームの外で、薬だけが並べられていくというシーンがありました。ここも巧いです。

6話に戻ります。
映画館のシーンで頭からかぶっていたダッフルコートを取り上げられたあゆが手をばたばたさせるシーンがありますが、これも武本演出ではよく見られます。

単純に手をばたばたさせるシーンだけを数えてもけっこう見つかると思います。
残像を残すことでメリハリがついて、しかも枚数を抑えられるので経済的(ちと語弊があるな)。武本演出はフルアニメーションが多いという社内評価があったりなかったりするようですが、これのおかげで山本演出よりは枚数が少ない印象を受けます。
12話や18話でも見られる北川のオーバーな動きなんかもこういうのに近い感じがします。
kanonの14話で舞が竹刀を連打するシーンがこれに似ているのですが、この回の演出は武本さんではなく石立さんでした。正直、14話見ているときは武本さんだと思っていました。(こちらの映像は武本さんの演出ではありません)

この辺は石立さんが武本演出をインスパイアしているんじゃないですかね。
最近の石立さんのこういう演出はオリジナルの(と思しき)武本さんにもないようなものを見せてくれるので見ていて楽しいですよ。kanonで一番伸びた演出家は石立太一さんで間違いないと思います。(個人的な意見)
CLANNADパイロット映像で智代連脚なんかも残像を見せた感じで似ているのですが、これも石立さんじゃないかと思ってます。チェレンコフ光を出すあたりが。(こっちは誰の演出なのかは不明)
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またまた6話に戻ります。
映画を見終わった後、喫茶店であゆを驚かせるところとか、あゆと別れるときの「ヒュードロドロ」のときのあゆの動きもおもしろいです。

ここはフルメタOVAアバンタイトルでテッサが宗介に謝りながら後ずさっていくシーンと重なるところがあります。
*3
奥行きを使ったおもしろい演出です。
もっとも、奥行きを使った演出は京アニでは北之原さんの方が得意のような気もします。それに動きを加えたのが武本演出なんじゃないでしょうか。
それと、テッサのまわりに汗の漫符が表現されていますが、これもけっこう出てきます。
京アニBONの「恋は猪突モーシン」でも最後のページで描かれていました。(マンガでは普通に使われる表現ですが)


kanon12話には祐一と舞の舞踏会のシーン、18話には北川と祐一が百花屋でアホダンスのシーンがあります。

「ハレ晴レダンス」や「もってけダンス」またはライブアライブの動かし方とこれらのシーンでの動かし方を比較して見るのもいいかもしれません。
ただ、これをもって山本さんと武本さんの演出の違いと判断するのは早計なんですけどね。作品も条件も違うわけだし。

*1:(C)VisualArt's/key/百花屋

*2:(C)VisualArt's/Key/光坂高校演劇部

*3:(C)賀東招二四季童子/トゥアハー・デ・ダナン