「アニメーション産業における実態調査報告書」を読みました

先週くらいから話題になっている、公正取引委員会が発表した「アニメーション産業における実態調査報告書」を読みました。
概要だけじゃなく、本体の方をじっくり読ませてもらいました。
最近の公正取引委員会は、いい仕事をしてます。大きなところでは橋梁談合の摘発がありましたが、続々と報じられる活動はまるで大岡越前か遠山の金さんを見ているようです。


アニメ業界はとりわけメディア業界に搾取される構造になっているので、この点に言及してくれた公取委はさすがと言ったところです。
しかしながら、公取委がことさらこだわっていたのは、契約文書の取り交わしだったようです。製作委員会から一次請けのアニメ制作会社との契約書類は比較的多く取り交わされているけど、そこからの下請けについては取り交わしが少ないということのようです。
きちんと契約書を取り交わして自己防衛しなさいと言うことなのでしょうけど。
確かに言わんとしていることはわかるのですが、契約書を取り交わすのは下請けにまわっている制作会社にとって非常に手間のかかることなのです。
契約書を作るとき、概ね次のことがポイントとして挙げられます。

  • 契約書の文面を法務的にチェック
  • 成果物を定義
  • 対価を定義
  • 損害賠償について
  • 権利の帰属

基本的に商法とかの専門知識がないと難しいです。
大きな会社はきちんとした法務考査部があって、内容を吟味してくれるけど、中小では厳しいでしょう。
しかも、大きな会社の法務考査部は、事業リスクをすべて外に押しつけるような契約書を作成してきます。押しつけられた制作会社は、その契約書を参考にして、さらにリスクを外に押しつけるようにするので、結局契約書を作るという手間が増えただけで何も変わらないかもしれません。印紙税もかかるし。
ここで最も難しいのは成果物の定義です。
発注側は「こういうものを作ってください」という意志のもとに成果物が定義されるのですが、監督やプロデューサがしばしば方針変えたりするようであれば成果物はなかなか定義されません。成果物を定義するタイミングが難しいのです。
となると、監督やプロデューサは下請けへの契約条件を把握しておく必要があり、仕様変更は契約変更でコストに跳ね返るということを知っておかなければいけません。
本来ならそうするのが当たり前なのですが、それでいい作品になるのかといえば、契約のために妥協したことになるので、仕上がりについては疑問が残ります。
アニメ業界は現場レベルでは助けてもらった借りは返すというような義理人情的なところもあるみたいで、それは契約書を作らないことによる利点なのかもしれません。


アニメ業界の問題は仕様変更によるリスクがきちんと予算化されていないことです。また、下請けに出した成果物の品質が悪かった時のバックアッププランが考えられていないことも挙げられます。
局印税とか代理店の手数料の話が注目されますが、まずは必要なコストを出した上で、これだけ必要だからそっちの分け前はいくらだという事業計画を見せてあげないと説明がつかないのでは?
すでにやってるのかもしれないけど。


報告書ですが、2章の市場の概要(業界の仕組み)のところがとても参考になりました。