クラッシュ!HDDレコーダーメイド(第3回)

早く済ませて本題に入りたいのですが・・

かけがえのないもの。

春になり、ひでこが来てから3回目の番組改編期を迎えた。
あいかわらず不具合は発生していたが、リセットすれば問題ないのでうまくつきあいながら、kanonひだまりスケッチなど次々とHD画質で全話コンプリートしていった。
録ったアニメはクレジットをチェックするためにEDを見ることがが多いのだが、あまりにも頻繁にチェックをするので、ひでこはEDにインデックスを入れてくれた。
「エンディングにぴったり合わせるのって苦手ですぅ。いつもよけいに送っちゃうからちょっとだけ戻して調整したり大変なんですよ。でも、インデックスを入れたのでぴったりあわせられますよ。ご主人様をお待たせすることも無くなりました」
聞けばひでこは全部のEDパートにインデックスを入れたらしい。
「あー、ひでこ。せっかくで悪いんだが、これとこれと・・あとこれは保存版じゃないから消しておいてくれないか」
「・・せっかく入れたのに。しくしく・・」


「ところでご主人様、さっきから何を読んでいるんですか?」
「ん・・これのことか?」
夏のボーナス向けて春先に発表されたAV機器のカタログをもらっておいたものである。ひでこはそのなかから気になったものがあったようだ。
「ご主人様・・これ・・HDDレコーダーのカタログ・・」
「ああ、やっぱりおまえも新製品が気になるのか?」
「・・私・・不具合ばかりだから・・買い換えようとしているんですか・・」
しまった。買い換えるつもりはまったくないのだが、HDDレコーダーのカタログは不具合が続いているひでこに対しては刺激的すぎるものだったかもしれない。
「私・・下取りに出されちゃうんですか・・」
「そんなことはしない。カタログはもらってきただけで・・」
「お願いです・・捨てないでください・・ご主人様に捨てられたら、私・・私・・」
さえぎるようにまくし立てるひでこ。かなり興奮している。
まずはおちつかせる。
「ひでこ、俺が悪かった。おまえのことを考えるとこういうものは持ってくるべきではなかったな」
「いつも言っているが不具合のことは俺は気にしてない。リセットすれば直るんだし、リセットはそれほど面倒なことだとは思ってない。それにおまえが来てくれてから半年、毎週欠かさず録ってコンプリートしてくれたアーカイブやひでこが入れてくれたインデックスは何ものにも代えがたいものだ。代わりなんかないし、今のおまえの性能で俺は十分満足している。だから下取りにも出さないし捨てたりもしない。」
「・・本当・・ですか?」
「ああ、本当だ。だからもうそんな悲しい顔するな」
今回の件で、ひでこは思った以上に自分の不具合のことを気にしているということがわかった。
「おまえの不具合もいつかちゃんと直してやる。だけど新番組がはじまったばかりで予定が立たないし、おまえがいなくなると録画ができなくなるから困るのもわかってくれ。・・な?」
「わかりました。ひでこはご主人様のお役にたてるようにがんばります。これからもご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします。」
ひでこも納得してくれた。
でも、修理のことを考えると、タイミングの問題もあるので、少々頭の痛い問題だ。

里帰り

そのタイミングは意外に早くやってきた。
ひでこの症状が悪化したのである。
これまでと違ったパターンで不具合が発生するようになった。
これまではWOWOWの有料放送の録画時限って発生していた不具合が、地上波アナログ放送のEPG取得で無応答になるようになったのだ。
毎回発生するというわけではなく、1週間に1回程度の頻度で規則性はなかった。
あいかわらずリセットすれば問題ないし、再生機能や通常の視聴には問題はない。
しかしながら、WOWOWの録画であれば週に1回程度なのでそこに絞って注意しておけばよかったのだが、EPGは毎日取得しているため、すべてを注意するのには限界が出てきた。
そのため、ひでこがフリーズしていることに気づかないことがあり、地デジ版として録っていたいくつかのアニメは録画失敗してしまった。
「・・フリーズしていたので録画できませんでした・・全話録画をめざしていたのに・・ごめんなさい。」
申し訳なさそうに報告してきた。
「まぁいい。そのことは気にするな。これは地アナで録ってるし」
しかしながら、これはいいタイミングなのかもしれない。
「なぁ、ひでこ・・ちょっと里帰りして調整してもらうか?」
「でも・・私がいない間の録画はどうするんですか?」
「全話録画も途切れてしまったし・・今期はどうしてもデジタルで録りたかったアニメもないからな。アナログ放送で録画できるからなんとでもなるさ。そんなことより10月になればCLANNADがはじまるから今のうちにしっかり直しておいてもらったほうが助かる。いいタイミングだったんだよ。」
「わかりました。そういうことならしっかり直してもらってきますね。私がいない間に新しいHDDプレイヤーを買ったらダメですよ」


そんなわけで、ひでこの里帰りが決まった。
あわただしく里帰りの手配をする。メーカーの人がわざわざ来てくれることになったので週末になった。


そしてその週末がやってきた。
「それでは行ってきますね。なるべく早く帰ってきます。」
「ああ、しっかり直してもらえよ。」
メーカーの人に伴われ、ひでこが出ていこうとしたところ唐突に振り返る。
「ああ、そうでした。これはご主人様が預かっておいてください」
そういって、ひでこが差し出したのはデジタル放送の受信機に入れるB-CASカードだった。
「これはもっていくわけにはいかないので預かっておいてください。」
そこには汚い字で『ひでこ』と名前が書いてあった。
「勝手にらくがきしやがって・・消してやる・・」
「ああ、そんなご無体な・・」
しっかり油性ペンで書かれていたので無駄な試みであった。
「私がいない間は、これを私だと思って大事にしてくださいね」
「何を訳わからんことを言っている。預かっておくから早く行って戻ってこい」
「ははは。じゃあ、行ってきますね」
そうして、ひでこは元気にわが家を後にしたのであった。
このときは、これからおこる悲劇は予想だにしなかった。